どうやら、一筋縄ではいかない砂の迷宮に迷い込んだらしい。この顛末を書き残しておくか。
第二章:魂の解体新書を書き終え、長きにわたる魂の鎧「RedfishViewer」の錬成の旅はようやく終わりを告げたはずだった。しかし物語にはまだ、語られざる一節が残されていた。
ほんの些細なバグを修正しようと、久しぶりにVisual Studio 2022という名の工房の扉を開ける。 「まずは肩慣らしに、古くなった道具(NuGetパッケージ)でも磨いておくか」 そんな軽い気持ちで実行した更新の儀式。その結果、私を待ち受けていたのは…祈りの言葉も届かない、無慈悲なビルドエラーの嵐だった。
これは、完成したはずの神器が時の流れによって再び呪われ、その呪いを解き明かすためにビルドエラーの砂漠を彷徨った、もう一つの戦いの記録である。
この羊皮紙のあらまし
この羊皮紙が導く者
- Prism 8.xという古の魔法から、9.xという新世界の魔法へ移行しようとしている魔法使い
- Material Designという名の美しい装飾を、バージョン5へと一新したいと願う職人
- パッケージ更新という日常に潜む「砂の迷宮」の恐ろしさを知りたい全ての冒険者
- NuGetパッケージの破壊的変更に立ち向かう覚悟を持つ開発者
- 完成したはずのプロジェクトが再び動かなくなった時の対処法を求める者
砂漠の道標
- NuGet(ニューゲット) - .NET開発で使用するパッケージ管理システム。ライブラリやツールを簡単にプロジェクトへ追加・更新できる。
- Prism - WPFやXamarinなどで使われるMVVMフレームワーク。画面遷移、ダイアログ管理、依存性注入などの機能を提供する。
- Material Design - Googleが提唱するデザインガイドライン。WPFでMaterial Designを実現するツールキットが「MaterialDesignInXamlToolkit」。
- RestSharp - .NETでREST APIを呼び出すためのライブラリ。HTTPリクエスト/レスポンスの処理を簡潔に記述できる。
- ビルドエラー - プログラムのコンパイル時に発生するエラー。コードの文法ミスや、依存関係の問題などが原因となる。
- 破壊的変更(Breaking Changes) - ライブラリのバージョンアップ時に、既存のコードが動かなくなる変更。メジャーバージョンアップで発生しやすい。
呪いの正体:三つの破壊的変更
エラーメッセージという古代文字を頼りに原因を探ると、どうやら「Prism」「Material Design」「RestSharp」といったこの世界の根幹を成す魔法体系(ライブラリ)そのものが根底から覆っていたらしい。予想を遥かに超える破壊的変更の数々に、AI(GitHub Copilot)という名の精霊に助けを求めても、ただ首を傾げるばかりだった。
第一の試練:Prism 9という名の「理(ことわり)の書き換え」
Prismのメジャーアップデートは、世界の理そのものを書き換えるほどのインパクトがあった。
- 名前空間の変更:
using句の書き換えは必須の儀式だ。 - ダイアログの実装変更:
IDialogAwareインターフェースのRequestCloseの作法が変わった。これを間違えると、ボタンを押してもダイアログが永遠に閉じない呪いにかかる。
名前の変わった聖域(名前空間の変更)
| 古の聖域(8.x) | 新たな聖域(9.x) |
|---|---|
Prism.Services.Dialogs |
Prism.Dialogs |
Prism.Regions |
Prism.Navigation.Regions |
扉を閉じる呪文(ダイアログの実装変更)
| 古の呪文(8.x) | 新たな呪文(9.x) |
|---|---|
public event Action<IDialogResult>? RequestClose; |
public DialogCloseListener RequestClose { get; } |
これに伴い、呪文詠唱時のnull条件演算子(?.)が不要になる。
public class MessageBoxViewModel : BindableBase, IDestructible, IDialogAware { // ... // 古の呪文: public event Action<IDialogResult>? RequestClose; public DialogCloseListener RequestClose { get; } // 新たな呪文 // ... public MessageBoxViewModel() { // ... OkCommand = new ReactiveCommandSlim() // .WithSubscribe(() => RequestClose?.Invoke(new DialogResult(ButtonResult.OK))) // 変更前 .WithSubscribe(() => RequestClose.Invoke(new DialogResult(ButtonResult.OK))) // 変更後 .AddTo(_disposables); // ... } }
この呪文を正しく詠唱することで、ようやくダイアログは私の言葉に応え、再び扉を閉じるようになった。
第二の試練:Material Design 5という名の「色彩の革命」
こちらも世界の色彩感覚を根底から覆す大きな変更が待ち受けていた。AdjustColorsメソッドは廃止され、ブラシ名は大幅に変更された。
ブラシ名に隠された「罠」
ブラシ名がMaterialDesign.Brushから始まる名前に統一された。しかし、ここで私は最大の罠にハマった。GitHubの賢者の集会所(Issue #2435)で交わされていた議論を頼りに、MaterialDesignBodyをMaterialDesign.Brush.Text.Foregroundに置き換えたところ、ダークモードで文字が闇に溶けて消えたのだ。
| 古の色彩(4.x) | 新たな色彩(5.x) |
|---|---|
MaterialDesignBody |
MaterialDesign.Brush.Text.ForegroundMaterialDesign.Brush.Foreground |
まさか賢者たちの議論の中にさえ、罠が潜んでいるとは…。 この原因特定には、公式Wikiの対応表と賢者たちの議論を照らし合わせ、最終的には自らの試行錯誤の果てに真の答え(MaterialDesign.Brush.Foreground)を発見するという、孤独な戦いを強いられたのだ。
第三の試練:RestSharp 111という名の「賢者の警告」
NuGetの賢者から「v111.2未満には危険な変更が含まれる」とのお告げがあった。
幸い、主な変更点はタイムアウトに関するプロパティだけだった。
| 古の時(110.2) | 新たな時(111.2以降) |
|---|---|
int MaxTimeout |
TimeSpan? Timeout |
羊皮紙を巻く前に
久しぶりの神器の保守で、予想外の大改修を強いられた。軽い気持ちで始めたパッケージ更新が、世界の理そのものの書き換えを要求する試練となった。しかし、この戦いを通じて、時の流れと共に変化し続ける魔法体系との付き合い方を学んだ。
呪われしパッケージ更新で学んだ教訓
- Prism 9の理の書き換え - 名前空間と
IDialogAwareの実装変更。RequestCloseの扱いを誤るとダイアログが閉じなくなる呪いにかかる。 - Material Design 5の色彩革命 - ブラシ名が大幅変更。特に
MaterialDesignBodyの後継は、賢者の議論にさえ罠が潜む。真実はMaterialDesign.Brush.Foreground。 - RestSharp 111の賢者の警告 - タイムアウトプロパティの型変更。v111.2未満は危険な変更を含むため要注意。
- AI頼みの限界 - GitHub Copilotはビルドは通るが実行時例外を吐く呪文を教えた。AIが真に楽にしてくれる日はまだ先。
まとめ
我々が創り上げた神器は決して永遠ではない。時の流れと共に、それを構成する魔法体系そのものが変化し、我々は常に学び、戦い続けねばならない。完成は終わりではなく、新たな戦いの始まりに過ぎないのだ。
この旅の全記録は、GitHubの羊皮紙に刻まれている。未来の旅人が同じ迷宮で迷わぬよう、この記録が道標となることを願う。
おっと、どうやら相棒が腹を空かせたようだ。今日はこのへんで筆を置くとしよう。
砂漠で見つけた魔法のランプ
Prismの古文書
- Prism Releases | 新たな魔法体系のリリースノート
- IDialogAware Interface | 扉を閉じる呪文の公式古文書
Material Designの古文書
- MaterialDesignInXamlToolkit Releases | 色彩革命のリリースノート
- Theme brush rename #2435 | 賢者たちの議論が眠る場所(罠あり)
- Brush Names (Wiki) | 色彩の対応表が記された古文書
RestSharpの古文書
- RestSharp Changelog | 賢者の警告が記された古文書
ラクダの独り言
ご主人が「ぬーげっとぱっけーじこうしん」とかいう、古い道具を磨く儀式を始めたら、工房から「うわー!」とか「なんでだよ!」とか、やけに騒がしい声が聞こえてくる。数日後、疲れ果てた顔で出てきたご主人が「完璧だと思ってたものが、時間と共に腐るんだ」とか言ってる。道具は使い慣れたものが一番だと思うんだがな。新しいものがいつも良いとは限らん。まったく、やれやれだぜ。